交論 米国の政治と暴力
11月の米大統領選に向けた選挙集会の最中、トランプ前大統領が銃撃され、聴衆に死傷者が出た。なぜこのような事件が起こるのか。大統領選をはじめ今後の政治に影響はあるのか。米国政治が専門で、米国の犯罪と現代の政党政治、米国社会の関係についても研究を重ねてきた成蹊大学教授の西山隆行さんに聞いた。
――トランプ氏の銃撃事件をどう見ていますか。
「事件に関して、さまざまな言論空間で、激しい経済格差や政治的分断といった社会的矛盾の表れ、といった意見が多いことに違和感があります。容疑者を射殺してしまったので、どこまで解明が進むかはわかりませんが、今のところ単独犯と見られており、冷静に事件をとらえるべきです」
「もちろん、日本と違って、容易に銃を入手できる国だから起きたという側面は間違いなくあるでしょう。いろいろな統計はありますが、あの国には軍や警察などの保有分を除いて、3億丁を超える銃が存在しています」
- 米国が引きずる17世紀の理念 トランプ氏襲撃を生んだ銃所持の神話
――一方で、最近の米国では政治における暴力が目立つように見えます。
「民主主義とは『頭をかち割るかわりに頭数を数える制度だ』という、よく知られている言葉があります。できる限り暴力を使わないように工夫するのが重要で、米国でもたとえ暗殺事件などが起きたとしても、『暴力を許容しない』という超党派のコンセンサスがありました。しかし、ここ数年は暴力による民主主義に対する脅威が目立っています」
「2021年1月には大統領選での敗戦を覆そうとしたトランプ氏の支持者が連邦議会を襲撃しました。前年には、ミシガン州のホイットマー知事(民主党)の拉致を企てたとした事件がありました。17年にはバージニア州シャーロッツビルで、白人至上主義団体と反対派が衝突し、死傷者が出ました。いずれの事件でも暴力を容認するかのようなトランプ氏の言動が批判を受けました」
――暴力的になっているのは保守派の人たちなのでしょうか。
「右の側だけでなく、『ブラ…